「インパクトからはじめよ」 — デザイン思考、アート思考、インパクト思考について

Taka Umada
Jan 24, 2021

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本日 2021 年 1 月 24 日に新刊『未来を実装する』が書籍版・電子版ともに発売されました。本書の一つのメッセージは「インパクトからはじめよ」です。

SDGsや気候変動対策をはじめとした、社会的インパクトや「私たちの社会のあるべき未来」についての議論が、ビジネスの領域でも活発に行われるようになってきました。

そして今回「テクノロジーの社会実装」をテーマに色々な方々にお話しを聞いていく中で気づいたことが、特にスタートアップのビジネスの拡大期においては「社会にどのようなインパクトを与えたいか」を語り、そのための社会の仕組みを一緒に作り上げる取り組みをしていくことが、ビジネスを成功させるための大きな要因になっているのではないかということでした。

このように「理想とする未来に旗を立てて、そこに向かって人と社会を巻き込みながら進んでいくための考え方とスキルセット」をインパクト思考とここでは呼びたいと思います。

そしてこのインパクト思考は、これからより多くの人に求められるのではないかと思います。

そこでビジネスにおける思考の歴史を少しだけ振り返って、なぜ今、インパクトが重要視されつつあるのかについての考えを共有します。

注目される思考の変遷

この「インパクトからはじめよ」という言葉は2010年に発売された安宅氏の『イシューからはじめよ』を意識しています。

この書籍で訴えられていた、問題解決する上では解の質を上げるよりもイシューの質を上げるほうが重要という考えは、この十年でずいぶん広まったのではないでしょうか。

2010年代を境に、論理的思考からデザイン思考へとビジネス界隈の注目が変遷していく中で、「問題解決ではなく問題発見」という言葉が繰り返し叫ばれました。選ぶべき問題こそが重要なのだと。これに異を唱える人はそれほど多くないでしょう。

問題発見が重視されるようになった背景には、論理的思考などの問題解決の技法の普及と民主化があると考えています。単に論理的思考によって問題解決ができるだけでは個人のスキルとしては不十分になったので、問題発見のためのデザイン思考のような新しいスキルが注目されたのではないでしょうか。

デザイン思考が流行する兆しを見せると同時に、スマートフォンの爆発的な普及が始まり、インターネットやスマートフォン上で多数の問題が生まれました。ローンチのコストが低いデジタル領域は、作りながら学び問題を発見していくデザイン思考の方法論との相性も良く、デザイン思考は広く受け入れられ、多くの人が学ぶようになりました。

しかしこの10年のデザイン思考の技法の民主化に伴ってか、簡単に発見されうる問題の多くは既に発見されつくされ、low-hanging fruit ともいえる顕在化している問題は解決されてしまっているようにも思います。

そして今ビジネスの努力の多くは、潜在的な問題を探り当てることに向かっています。しかし潜在的な問題を発見するのは大変です。なぜなら潜在的な問題は何かしらの理由があって、潜在している状況で留まっているからです。

ではそうした状況で、私たちはどのように問題を発見することができるのでしょうか。そこで一度立ち戻りたいのが、問題とは何かと言う点です。

問題=理想と現状のギャップ

問題とは理想と現状のギャップです。理想がなければ問題は生まれません。逆に言えば、一つの良い理想を提示できれば、そこに現状とのギャップが生まれ、問題が浮かび上がってきます。

なので潜在的な問題を見つけるのではなく、新たな理想を提示することで問題を浮かび上がらせることももう一つの「問題発見」の手法だと言えます。

これは人々を巻き込める “to-be” 像を提示して、そこに立ちふさがる問題を次々と解決していく、問題提起型のアプローチです。そしてこのアプローチがこれからのビジネスにより求められていくのではないかと考えています。

たとえばテスラは気候変動の問題を受け、石油燃料からの脱却というインパクトを描き、EV の普及に努めました。そのテスラがトヨタの時価総額を超えたのは、2003年の創業からわずか17年後です。そして18年目の今、ゼロから始めた企業は(バブルという声はあれど)83兆円の時価総額をつけるようになりました。

テスラは理想というインパクトを提示して、社会を変えていく取り組みを行いました。その結果、高い評価を受けています。

アート思考とインパクト思考

昨今、アートの持つ未来を夢想する力をビジネスに活かそうとする「アート思考」という考えが昨今流行りつつあるようです。

(※2020年発売の「13歳からのアート思考」は13万部売れており、「イシューからはじめよ」は20万部売れたとのことです)

こうしたビジネス業界からアートへ向けられる期待は、今まさにビジネスの領域でも、未来を構想し、問題を提起する力が求められはじめていることを感じている人が多いからではないでしょうか。

アートは自分だけの答えや個人の創造性を重視し、社会に対するオルタナティブを提案してくれます。つまり未来の選択肢を示す一つの方法としてアートの技法は使えるかもしれません。

しかし単に未来を提案しただけでは実現はされません。未来を実現するには、自分なりの答えのなかから一つを選び出し、その実現に向けて全身全霊でコミットすることが求められます。そしてビジネスの面を考えてみれば、その実現にこそ意義があります。

決してアート的な考え方が不要だと言っているわけではありません。ただアートにとどまるだけではなく、さらに一歩踏み込んで、それを実現させていくことが大事であり、理想という一つの旗を立てて、社会全体を巻き込みながら未来の可能性を一つの現実として変えていく力、つまりインパクトを出していく考え方とスキルセット、今の時代に求められている力なのではないかと思います。

スタートアップであるココナラの共同創業者である南さんも、最近のインタビュー記事で『「これが問題である」と旗を立て、周囲の人間を納得させたり巻き込んだりしていく力が、学生だろうと社会人だろうと本質的に求められていると思います』と語られていますが、良い未来を提示することで、問題を新たに定義して、その認知を広げながら解決を試みていくこと、それがおそらくこれから必要とされるスキルではないでしょうか。

インパクト実現の前に立ちはだかる壁を乗り越えるために

そうしたインパクトを掲げて社会を変えようとしたときには、様々な課題が生まれます。

たとえば新たな技術によって生まれるリスクをどのように馴致するのか、社会的倫理との調整をどうするのか。法律や制度との兼ね合いをどう調整していくのか。アート的な未来の可能性の提示をした後、その未来の実現をしていくためには、様々な社会との調整が待ち受けています。

そこで『未来を実装する』では最初にインパクトについて語り、その後に「リスクと倫理」「ガバナンス」の技法について話し、さらに人々を巻き込んでいくうえでの「センスメイキング」の技法を紹介しています。

これらは細かい議論が多いですが(そのため本も分厚くなったのですが)、実際に未来を実現させるためにはそうした面倒な作業を繰り返し少しずつ進めていかなければなりません。その一端が少しでも伝わると良いなと思っています。

そして次なる思考がどのような思考なのかを知りたいという人、そして未来をビジネスで変えていきたいと考えている人がいれば、ぜひ『未来を実装する』を手に取って、何かの議論の土台にしていただければ幸甚です。

なお、『イシューからはじめよ』を出版された英治出版様から、本書『未来を実装する』を出せたのは僥倖でした。「イシューからはじめよ」に続き、「インパクトからはじめよ」という言葉が多くの人に届くことを願っています。

キャンペーン等について

なお、出版に合わせてキャンペーンも実施しています。

その他の記事

特設サイト: https://implementing-the-future.com/

補足 :https://takaumada.com/book/implementation/

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Taka Umada

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein